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ジャパニーズオデッセイ DAY3  シンガーソングライター 歌えなくなったら止まれ ― ジャパオデ3日目の判断基準

総距離およそ2,300km、累積標高は最低46,000m、鹿児島県の桜島から長野県松本市を目指すウルトラロングライドイベント『ザ・ジャパニーズ・オデッセイ2025(TJO2025)』を走った落合佑介のウルトラロングなレポートをお届けします。 

 

真夜中に標高1,000mまで往復 

 

 

次に目指すのはチェックポイント7「Shikano Col」。鬼が城ピークストレイルというイベントが開催されていることでも知られている場所だ。 

 

トレイルランもTJOも、競技としては別の分野に見えるが、実際にやっていることはとても近い。同じ地形を相手にし、距離と獲得標高を積み重ね、身体だけでなく判断力やメンタルの消耗と向き合い続ける。速さや順位よりも「前に進み続ける力」が問われる点で、本質は共通していると思っている。 

 

一度、鬼北町の町中の標高100mまで下り、そこからチェックポイントに向けて標高1,000mまで登り、折り返す。グラベル区間はなく、一見すると単純なチェックポイントに思える。実際、900mを登ること自体は時間も体力も奪われるものの、下りでの眠気と野生動物にさえ注意すれば、難易度自体は決して高くないはずだった。 

 

夜間での登頂となったため、宇和島市内のネオンを眼下に楽しめることを期待していたが、チェックポイント付近は霧に包まれており、下界を望むことはできなかった。 

 

だが、ここは重要な分岐点でもあった。往復せず道なりに南下して最短距離でセグメント8「Mount Sasayama」を目指すか、それとも距離は延びるが頂上で折り返して宇和島市内を経由するか。最短ルートをチョイスしなかったのは危険が伴うからだ。 

 

ストリートビューやツーリングマップルを何度も見返したが、確実に通行できそうな道は見つからず、通行止めの可能性も非常に高かった。各所に問い合わせもしたが、聞きたかった道については「管理外の道もある」という回答でどこに問い合わせるのかわからず、正確な回答は得られなかった。 

 

TJOは安心して走りたい。グラベルよりもオンロード、獲得標高はできるだけ低く、多少距離が延びても安全な道を選ぶというマイルールから、宇和島市内を経由するルートをチョイスした。 

 

しかし、このチョイスが予想以上に堪えた。登りは淡々とペースを刻み余裕をもってクリアした。下りはわずか30分程度だったが、暗闇の中で心拍が下がった状態は、想像以上に危険だと改めて実感した。夜の長い下りは要注意だ。 

 

眠気対策として有効な方法は環境や状況によって異なるが、今回はカラオケとポッドキャストが効果的だった。 

 

カラオケは睡眠の必要度合いを測る指標になっている。ランダムに流れる好きなジャンルの曲を聴いている間は楽しく走れている状態。自分で選んだ好きな曲を歌っているうちは、まだ余裕がある。心に深く刺さる一曲だけを繰り返し歌わなければならなくなったら、走行は続けられるが限界が近い。歌えなくなったら、迷わず止まったほうがいい。 

 

ポッドキャストは最後の手段だが、話の内容に興味を持てて、相づちを打てる状態であれば、眠気を打破して走り続けられる。 

(同じことをしても同じ結果になるとは限りませんので、一例として読んでいただければ幸いです。)

 

 

余裕は準備で作る。四国の山場・篠山へのアプローチ 

 

 

 

宇和島市内に到着し、できるだけ次のセグメントのスタート地点に近いコンビニまで走って休憩した。チョイスしたコース沿いで営業時間内に寄れるコンビニは300km以上先、セグメント10の手前になる予定だったため、約19時間分の食料を確保する必要があった。 

 

本当はチャージスポットでモバイルバッテリーをレンタルしたかったが、レンタル店は朝の10時開店のため、断念するしかなかった。ここからもまだまだ節約しながら進むしかない。補給食はまだ余っていたが、余裕をもって追加購入してバックポケットはパンパンになる。後半は小型で軽量なカロリーメイトが残ってしまうだろうが、ハンガーノックは避けたい。夜が明けた5時頃、コンビニを再出発した。 

 

セグメント8は、四国最大の難所になるだろうと予想していた。「Mount Sasayama」という名の通り、標高約800mまで登って下ってを繰り返し、篠山を越えるコースだ。真の難所は、その先のセグメントゴール直前に隠されている約15kmに及ぶ玖木山林道のグラベル区間だ。登りは獲得標高400m程度しかないのだが、グラベルの登りは必要以上の体力と神経を使い、時間もかかる。 

 

ストリートビューもなく、林道の名前さえ把握しづらい峠だったため、詳細を知らない参加者も多かったと思う。私のタイヤのセッティングでは押し歩きが多くなることを想定していた。また、ここまで進む頃には単独で走行している可能性が高かった。そのため、ぜひ日中に通過しておきたい四国の山場だった。計画を立てたときは夕刻ギリギリの予定だったが、コース短縮により陽があるうちのクリアが視野に入ってきた。 

 

セグメント8のスタート地点へ向かうには、海沿いの宇和島市内から獲得標高約600m登ることが必要だが、県道286号・御内下畑地線は私の中では、まさに理想的な林道アプローチだった。路面には落ち葉や車の轍があり、それ以外の部分にはわずかに苔が生えている。周囲には背の高い木々が生い茂り、ガードレールはなく車は通らない。そこに降り出した雨が、雰囲気をさらに引き立ててくれた。 感動に浸ってしまい、その瞬間を写した写真が残っていないのは少し残念でもある。けれど、カメラを構えるよりも、その場の空気や光、音を全身で受け取りながら走ることを選んでいた。記録として残す一枚よりも、その雰囲気の中を走っているという実感のほうが、あの時の自分には大切だったのだと思う。そして、時間も季節も違えば、また違う雰囲気を感じられるだろうから、写真よりも実感を大切にした。

 

その林道を抜けると、突然集落が現れた。田園風景が広がっており、気持ちが解放されるようだった。本降りになれば走行に支障が出るが、幸い通り雨だった。 

 

 

 

17km走って篠山峠に到着し、写真を撮る。雨で車体は泥だらけだが、大分県のフェリー、臼杵港での汚れよりはまだマシだ。走行中に砂がある程度落ちてくれているようだった。 

 

ここからの下りはかなり危険だった。ウェットな苔道に加え、グレーチングがなかったり、逆向きに設置されている箇所もあった。28cのタイヤでは溝にはまりそうだったため、ロードバイクを降りて慎重に渡った。時間はロスしたくないが、安全を最優先にした。ここで選択を誤れば、結果的に時間をもっと失うことになるからだ。 

 

 

 

玖木山林道は、事前の予習どおりだった。オフロードバイクが走っているYouTube動画を見つけたため、走れる区間と走れない区間があることは想定済みだった。ここも無理には乗らず、潔く押し歩く。途中でコンクリート舗装のような走りやすくなる路面が現れることもなく、判断に迷うことはなかった。 

 

生い茂る林の道を抜けると、頂上付近までたどり着いた。周囲の山々を見渡せる開けたグラベルに変わる。枝とススキが生い茂り、通れる道幅が狭いため、身体に当ててダメージを最小にして進んだ。頂上からの下りでは再び林の中へ入り込んだ。スピードが出る下りは荷物の重さもあり、サイドカットのリスクが高い。登り以上にゆっくり、慎重に進んだ。ここもトラブルなくクリアした。 

 

 

 

 

その結果、車体は再び臼杵港の状態に戻った。今度は玖木山林道の土をたっぷりと纏うことになった。グラベルを抜けた後は、土の怨念か分からないが調子が上がらない。それでも無事を祝って自動販売機でジュースを1本買い、セグメント9「Tsuno Wind Park」を目指すことにした。 

 

 

距離では測れない。夜に走る山岳の厳しさ 

 

ブログの下書きを書いているとき、「セグメント9までは休憩時間。75kmで獲得標高1,000mの区間だ」と何気なく書いていた。思い返すと、完全に感覚が狂っている。どう考えても山岳コースだった。明らかに登りが多いコースを「平坦基調ですよ」と言う人と同類だろう。 

 

セグメント9は約70kmで、春分峠とゴール地点である津野の風の里公園、2つの峠を越える。春分峠を明るいうちに下りたいと思っていたが、伏兵が潜んでいた。玖木山林道が本格的なグラベルだった一方、春分峠の下り部分的なグラベルが残っていため、乗るのか押すのか判断に神経をすり減らした。 

 

日暮れまでに下りたいと思っていたのに、グラベルで時間を要したこともあり焦りはあったが、慎重に進んだ。松葉川温泉ホテルのほぼ満車を横目に、ゆっくり温泉に浸かりたい気持ちをグッと堪えて通過する。 

 

ルートを振り返ると標高約200mの登りがあったはずだが、もはや記憶にない。ただし下りは鮮明に覚えている。風の里公園へ向かう登りの直前で、標高約300mも下らされたからだ。目の前には、たった獲得標高50mで合流できる国道197号線があるのに、あえて林道の下りを組み込んでいる。日没後、メンタルが落ちやすい時間帯で、わざわざ遠回りさせて下って登るようなコースを組み込むとは、狂気の沙汰だと思った。

 

こういう時は自動販売機でジュースでも飲んで一息つきたいところだが、ルート上には自動販売機すらない田舎道だった。 仕方なく、補給食を食べて進むことにした。

 

わずかに回復したメンタルで、街灯のない闇の中を風の里公園へ向けて登り始める。獲得標高約800mの登りは、距離以上に長く感じた。前日は真夜中に獲得標高約900m「Shikano Col」に登っているが、この日の方が厳しかった。闇夜は容赦なくメンタルを削っていく。登りの途中にはクネクネした平坦区間も挟まれ、スピードが出せず気持ちの盛り上がりに欠ける。 

 

2018年のチェックポイントでもあった場所のため、見覚えはあるものの記憶は曖昧だ。時折10%を超える勾配は予想以上に厳しく、早朝のコンビニから休憩を取っていなかったこともあり、疲労が表面化してくる。つづら折りに入るが、カーブまでが長かったり、距離が不均等だったりしてペースを作りにくい。 

 

「いつかは終わりが来る」「下りに備えて心拍をできるだけ一定に保ち、疲労を感じさせないようにしよう」と言い聞かせ、なんとか登り切った。 

 

 

■月明かりに背中を押されて 

 

 

 

 

風の里公園は20基もの風車が立ち並ぶ場所だ。園内には「風の丘」「カルストゾーン」「風車体感ゾーン」「展望ゾーン」「風の広場」「森林浴の森」など、さまざまな見どころが用意されているが、暗闇のため素通りし、次を目指す。 

 

次はセグメント10「Kyobashira Pass」までの移動区間だ。標高約50mまで下り、再び約500mまで登り返す。それ以外は“比較的”平坦で移動距離は約93kmだ。高知市内を経由する参加者が多い中、仁淀川町や土佐町といった四国中央部を通るルートをチョイスした。 

 

セグメント10のスタート直前に24時間営業のコンビニがあり、休憩を取る予定にしている。セグメントの「京柱峠」という言葉に騙されてはいけない。一般的な京柱峠は国道439号線を通るルートで、いわゆる“酷道”として知られている。しかし今回のルートは、その酷道を外れた小道を通るルート設定がされている。当然、険しさは増す。 わずか47kmのコースに、約2,000mの獲得標高が組み込まれている。つまり平地はほぼ存在せず、せっかく登っても下らされる構成だ。 

 

セグメント9を終えると、すぐに下りに入る。セグメント10までは自由にルート設定ができるため、最短かつ安全なオンロード林道をチョイスした。立ち寄るつもりはなかったが緊急用で、コース外に1kmほど走るとコンビニがあったことも決め手だった。 

 

気持ちとは裏腹に、疲労は確実に蓄積していた。標高1,000mから一気に50mまで下るため、危険を強く感じる。少しでも異変を感じたら止まり、一息入れる。補給食やガムは十分に残っていたため、摂りすぎないよう、ゆっくり口にしながら進んだ。 

 

時刻はまだ22時頃。ここで仮眠を取ると、夜中か明け方にもう一度強烈な眠気のピークが来ると考え、寝るには早すぎると判断した。 

 

下り切った後の疲労を考慮すると、補給食の消費が予想以上で足りなくなりそうだったため、コンビニを経由することにした。この先、セグメント10手前のコンビニは65km先、その次は207km先の徳島市になる。普段なら立ち寄る必要はないが、体調と安全を最優先した。 

 

レシートは残っていないが、このコンビニで約1,500円分購入し、65km先のコンビニでも約2,000円分購入している。深夜、誰もいない時間帯に現れる、少し汚れた優良客だ。 

 

※夜間が写真が少ないです。鹿児島名物きびなごの天ぷらをお楽しみください!

 

 

好きなパンやおにぎりを買い込み、表情とは裏腹に心の中はホクホクでテンションも高い。星空と月明かりにも恵まれ、走りやすい夜だった。林道の薄暗い月の見えない道より、月明かりが差し込む道は走りやすい。月明かりは、人の気持ちを穏やかにする一方で、不思議な高揚感や気分にもなる。立ち直りは早くて4日目の深夜とは思えないほど、先ほどの疲労も眠気も飛んでしまい、3時間半でセグメント10手前のコンビニまで進むことができた。 

 

DAY3は高知県高岡郡越知町まで進み、344㎞を走った。 

セグメント10への移動途中だった。