nomu’s VIEW ライダー観察記録
こんにちは、メカニックの野村です。
引き続き、昨年の日本縦断ギネス記録チャレンジにおけるライダーの様子をレポートします。今回は機材ではなく、ライダー落合という自転車の原動力である人間にスポットをあてつつ、私の心の突っ込みを交えて振り返りたいと思います。
①チャレンジ中の概要(睡眠どころか休憩もしてへんやんけ!)
宿泊を伴うような長時間の休憩は一切予定しておらず、自転車から離れるのは、おおよそ4時間に1回やって来る、肌を保護するクリームプロテクトJ1を塗りなおすタイミング、通称”J1タイム”でコンビニや道の駅などで停車する時のみ。食事については、補給食としてサポートクルーが用意した菓子パンや総菜パンを信号待ちなどのタイミングで受け取って1時間に1~2個を食べ続けるという内容で、とにかく淡々と一定のペースで止まることなく走り続けるライダー落合。
安全のためにサポートカーの中で仮眠を数回とったものの、長くても1時間、ほとんどが30分未満です。まともな休憩と呼べそうなのは、本州を完走したあとの北海道への移動手段に選んだ青函フェリーでの移動時間、わずか4時間だけでした。牛丼を2個食べて、シャワーを浴びてからベッドに横になる、どこまで回復できたのか分かりませんが、北海道に上陸してから200kmほどは天候も良く快調なペースで走る事ができていました。(サポートしているクルーの疲れは溜まるいっぽうやで…)
また、走行中のライダー落合の様子ですが、フォームは平地では上半身がブレることなく、やや低めの一定のケイデンスで淡々とペダルを回し続ける一方で、アップダウンのある区間や信号からすのスタートでは力強いダンシングを行っていました。おそらく座った状態でのペダリングで凝った筋肉を解すなどの理由があると思われます。北海道に入ってからはやや力んだ様子に見えましたが、後に聞いた本人談によると向かい風が強かったため踏み込むようにしてトルクを掛けざるを得なかったようです。あと、印象的だったのは”暇つぶし”です。やはり長時間のサイクリングで精神的にも疲労がたまるのか、DHバーを持ちながら考え込むような姿勢をとったり、白線の右、左と細かい蛇行をしてみたり、遊び?を取り入れているような姿も目にしました。(最初は何かトラブルがあったのかと焦りました)
暇つぶしに関しては、RAAでもあったようにサポートクルーへの面白リクエストや急遽開催されるクイズ大会などサポートクルーも気が抜けません。あと、サイコンとして使用しているLEOMO TYPE-S はスマートフォンとしても使えるマルチ端末で、夜間走行中にはB’zの楽曲が流れていました。(そしてー輝く…ウルトラソウッ!)
②運動強度のコントロール
ブルべなどで丸一日以上走り続ける際には、頑張って走ると当然疲れます。疲れると強い眠気に襲われるようになったり、体力、精神ともに余裕がなくなりトラブルのリスクが増えてしまいます。
ロングライドでは距離が長くなればなるほど、スケジュールの管理、どのタイミングでどこにいるかが重要になると思います。どこで休憩をするかを事前に計画することで、安全なライドを続けることが可能です。(まあ、ほとんど休憩してないんですけどね!)
ライダー落合は事前にタイムスケジュールをサポートクルー向けに作成しており、おおよその経過時間は把握しながら走っていたようです。みなさんも経験があると思いますが、計画を綿密に作れば作るほどその通りに走れるかどうか不安になりますよね。
今回の縦断では、比較的条件が良かった九州~近畿はほぼオンタイムで走行し、断続的にやって来る雨雲に悩まされた日本海ではビハインドを背負う区間があるものの、天気回復と共に誤差30分程度で新潟まで走行しています。本州区間の最終地点、青森港では予定していたフェリーに間に合うかどうか?というギリギリのタイミングではありましたが、最強のエナジードリンクBOOST SHOTを使ったラストスパートが決まり、2,000kmの走行で誤差ゼロという驚異の結果が出たのです。(港で待機しながらハラハラしましたヨ)
スピード、ケイデンス、心拍数にパワーメーター
サイクリング中に起きている事象を数値で把握するための装置が身近になりました。これらの数値を理解し、有効に活用する事で運動強度、負荷を把握し、ロングライドをシステマチックにコントロールする事も可能です。精密機械のような時刻表通りの超特急落合号ですが、縦断中に使用していたセンサーは…何もありません。GPSで走行距離と速度はチェックしていたようですが…。(感覚だけでここまでできるものなのか?これはホンマにようわからん)
③徹底した省エネ
走行中のライダー落合はとにかくエネルギーの消費を抑えているように見えました。防寒着へ着替えるタイミングの連絡や、ガムや飴など食べ物を要求するなど具体的なリクエストを出す以外は発言する機会は極端に少なく、こちらから随時情報を提供しても、それに対するリアクションは極めて小さく、その表情からは元気なのか疲れているのか、何を考えて走っているのか全く分かりません。(いや、普段から何を考えているか今一つ表情から読み取りにくいのだが)
当初は疲れているからかな?と思っていましたが、事後に確認したところ、感情や表情を発露する事もエネルギーを節約するために控えているとの事でした。縦断中のJ1タイムや予定していたルートの変更などで誘導する際でも、こちらが指示するままに亡霊のように動く落合氏に違和感を感じたのにはこういった理由があるのです。補給の食べ物についてもカレーパンのような刺激のある物は好まないそうです。(ダッカルビのお焼きが美味しそうだったのでついつい買ってしまってスマンやで)
④運動強度と補給の内容(ホンマにそれで足りてるんか?)
ライダー落合の体格と走行ペースから算出できる1時間当たりの消費カロリーはおよそ800kcal
エネルギーの補給は、総菜パン、菓子パンをサポートクルーから受け取って信号待ちなどで隙を見て食べていました。聞くところによると、パリ~ブレスト~パリでの経験から、ロングライド中に補給食でモチベーションを上げるために、美味しいパンをチェックしているそうです。一定のペースで単調に走るだけのロングライドの中で、必要な補給と息抜きや楽しみを兼ねている訳ですね。
極力休憩を除いて走り続けるスタイルのライダー落合、菓子パンを中心とした補給だけでは賄いきれないエネルギーは体脂肪の燃焼する事によって補っている事になります。実際に縦断が終わった後には2㎏近く体重は減っていたようです。
低い運動強度を維持する事で体脂肪を燃焼させながらサイクリングを続けることが可能でありますが、そのためにはより多くの酸素を細胞に取り込む必要があります。驚異的なエンデュランスサイクリングを支える能力として、ライダー落合には優れた心肺機能(酸素を取り込む能力、運搬する能力)が備わっていると思われます。
また糖質に頼らない事で消化吸収を担う胃腸への負担を軽減する事ができる。
省エネと低い運動強度の結果、ライダー落合は休憩や食事によるロスを無くし、更には消化・吸収という運動と相反する身体への負担も少なくする事ができています。ロングライドやブルべでのファーストランでは、走行スピードやゴールタイムに関心が集まる事が多いですが、それは結果でしかありません。トレーニングや精神論とは異なる理屈や考え方に注目してみると、我々一般のライダーにも参考になる点があるかもしれません。(まあ、本人がそこまで意識しているかどうかは知りませんが)
⑤機材へのこだわり
ライダー落合がロングライドで愛用しているmacchiのオーダークロモリバイク、決して軽量とは言えないフレームに、エアロ形状のホイールを使用しています。にも関わらず、ボトルのサイズには非常にシビアです。昨年のRAAでも、走行区間にアップダウンがあったり、気温が下がる時間帯ではボトルをスモールサイズにする、補充する水の量を少なめにするなど細かい指示がありました。(ホンマにそんな違いが分かるんか?)
その他、機材の好みはこのプロジェクトが始まってからは、軽さよりも安定感や乗り心地を重視する方向に変遷しています。ハンドル回りで効果抜群のショックストップステムだけでなく、細かい点で昨年から使用しているIRCのASPITE PRO RBCC は24Cから26Cと一回り太いサイズになっています。2,000kmまでのブルべ、ロングライドでは問題なかったようですが、目的である5,000kmオーバーのRAAMを見据えて、ストレスの軽減に向けて機材の点からのアプローチも引き続き行うようです。
以上、今回はライダー落合のロングライドにおける考え方やスタイルを中心にレポートしました。全く同じ事が出来るわけではありませんが、その理論や理屈は参考になる点も多いのではないでしょうか?(やっている事はトンデモですが、意外に分析するとフツーでしたね)